台所に立つのが好きです。

 自分や家族が食べるものを作っているときがいちばん幸せな時間だなと感じます。手や頭が勝手にはたらいて、誰かと一緒に食卓を囲むことを考えているとき、料理をつくることは「あなたのことを想っている」と言うのと、同じことだとおもいます。
 写真を撮るときの感覚が、それにとても近い瞬間があって、そんなとき写っているものはふつうの情景だったりします。なんでもない毎日がそのまま写真になっただけの、空気のようにそこにあるもの。
 自分がいいなと思うのは、そういう意味で「ふつう」の写真です。ふつうの美。ほんとは「ふつう」なんてつける必要もなくて、美しさは、目を向ければどこにでもあるということを、示したいと思っています。

 最初にウェブサイトを作るとき、他の優れたフォトグラファーさんたちのように見栄えよい写真を並べようとしましたが、それだけだと、この「ふつう」の感覚がうまく伝わらないことに気が付きました。そのあとに、自分の家族や友人、出会った人、いつも生活しているまわりの様子や、撮影の前後に起きた何でもないこと、読んだ本のこと、心の隅でわきたつ疑問、小さな喜びについて、載せていこうと決めました。取るに足りない生活の細部も、仕事のものも、区別することなく。


 ここは自宅とつながったお店のような場所で、生活と仕事を区切るドアはときどき開いています。
 いつでも、どうぞ。

イトウ タカムネ